CDLマガジン
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vol. 098
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コミュラボ
ライター
9月8日(金)、約1年ぶりとなる社会井戸端会議が開催されました。
パネリストには、余白学者の戸越 正路(とごえ まさみ)さんをお招きし、今回のテーマである ”イマ”の「生きる」と「働く」について考えました。
コミュニティデザインラボがつくっている3つの場「出会う場」「魅せる場」「考える場」の中の「考える場」として開催しているテーマ型地域会議です。
地域で実際に起きている課題に対し、課題の掘り下げ、課題の共有だけで終わらず、具体的にどんなアクションができるかというところまでをみんなで考えます。当事者や専門家だけでなく、様々分野の方に参加してもらい、みんなで問題を「知って」「考える」そして「つながる」きっかけをつくる場です。
第7回目となるこの日は、なんと三股町内外から40名以上の人がコメーキングスペース コメに集まり、ある事例について一緒に考えました。
今回の事例は、たばことお酒が大好きな、Kさん60代男性。年金はあるものの、すぐにたばこやお酒に消えていってしまうため、いつもお腹がすいています。
お金がなくなった時は、お店の方からツケで商品を買ったり、食べ物を分けてもらったり、地域のみなさんのやさしさには恵まれているKさん。しかし、組織で働くことも性格に合わず、合う仕事がないといいます。
統合失調症がありますが、体はとても元気で、三股町から遠く離れた都城市まで歩く行く姿が見られたこともあるほどパワフル。
そんなKさんの生き方や働き方について、福祉だけじゃない、いろんな視点から「生きる」と「働く」についてパネリストと一緒に可能性を探っていきます!
パネリストの余白学者・戸越 正路さんは、都城市山田町出身。20歳で上京した後、3.11 東日本大震災の発生で常識が通用しないことを痛感し、自身の中で物事の捉え直しを始めたといいます。
宮崎に戻って来た後は、”ニュートラルニート”としてシェアハウスの運営等しながら、「遊び人を極めると賢者になる」というドラクエの設定になぞらえ、35歳でニートから余白学者へと転身。
現在は、余白学者として、自身に合うライフワークとライスワークのバランスを取り入れながら、社会の余白として生きることを大切にされています。
そんな戸越さんは、今の生き方、働き方を考える上では、私たちを取り巻くいろんなものごとと、自分の中での納得感や適切な距離感がどこなのかを探っていくことが重要なのではないかと話します。
さて、Kさんにとって納得できる働き方はどんな形なのか、私たちにできるKさんへの関わり方のヒントは見つかるのでしょうか?
ここから、いよいよ参加者のみなさんとのディスカッションが始まりました。
Kさんの力で地域をもっと面白くできると本気で信じているコミュラボ。これまでにもKさんにいろいろな関わりを試みてきましたが、なかなかうまくいかず。。。
事例だけ見ると、たくさんの問題を抱えているように見えるKさんですが、実はいろんな強みがある一面も見えて来ました。
<Kさんの強み>
・どこまでも歩けるほど体力がある。
・高度な冗談を言うユーモアがある。
・お金を借りても必ず返したり、お返しの物を持ってくる。
・昨日食べたおかずを「あれはうまかったぁ!」と幸せそうに話す(瞬間幸福度高め)。
・この時代にツケで暮らせている。
などなど。
Kさんに関わるコミュラボスタッフの1人は、ツケで食べ物をもらったり、周囲の人に助けられて成り立たっているKさんの生き方に衝撃を受けるともに、Kさんに出会ったことで自分自身の生きやすさにつながっているような感覚もあるというコメントも。
確かに、「こうじゃなきゃいけない」と考えがちな私たちからすると、見方を変えればKさんの生き方はそれでも生きていけるんだという余白をも感じさせます。
でも、Kさん自身の困りごとは、今日、明日の食事とそのための仕事。じゃあどうしたら仕事をしてお金を得ることができるのか。会場では、Kさんについてもっと知りたいとKさん自身についての質問も飛び交う中、具体的なアイデアも聞かれていました。
<参加者からのアイデア>
・たくさん歩けるので、靴屋さんとコラボレーションできないかな?
・タバコが好きなら、喫煙場作って、そこの掃除もちょっとしてもらうことで、喫煙者の憩いの場みたいにしてみるのはどうだろう。
・フードドライブならぬ「Kさんドライブ」みたいな仕組みを作って、Kさんが困ってやって来たときに何か渡せるようにストックしておくとか?
・Kさんの生き方やユーモラスな一面を何かしらの形で発信することで救われる人がいるんじゃないか?
など、Kさんのできることを生かしたさまざまな意見が聞かれる一方で、Kさんの声が大きいので少し怖いと感じることがあったり、仕事を簡単に依頼できないという地域住民の方の声があるのも実情としてあります。
余白学者の戸越さんは、
「最初にライフワークとライスワークの話をしましたが、1番追いかけなきゃいけないのはライフワーク。やはり、人の役に立つとか、社会に求められるみたいなところを追いかけていかないと生きられないと思うんです。Kさんが1人で生きていくための仕組みを考えるより周りからも、支えられて生きていけるようなところをゴールにした方がいいのかもしれない。地域の方の不安を取り除くこともセットで考えなきゃいけないと感じています」
戸越さんのコメントからディスカッションは、よりKさんに寄り添ったものへと深まっていきました。
<参加者からの声>
・Kさんの問題であるけど、自分たちもいつ病気や障害を抱えるかわからない。自分が生きる手段を話してるような感じがする。
・強みだけじゃなくて、実は弱みも大事なんじゃないか。
・福祉サービスだけじゃない視点も大事だけど、もしかしたら障害福祉サービスをうまく使ってみるのもアリなのでは?コーディネーターと一緒だったら地域の方も安心するはず。
など、具体的にKさんの特性や地域の方に寄り添った具体的な意見も。
また、参加者の中には、*ピアカウンセリングに従事していた人もおり、「本人の思考や価値観、こだわりに沿ったアイデアをはめていかないと、違ったアイデアを何回も試してるうちに、だんだんモチベーションが下がって、閉じこもっていくこともある。もし自分が関われるなら、もっと近いところでKさんを捉えたい。実際にKさんが来る井戸端会議を設けて、そこでもう1度Kさんに合うアイデアを出してみたりするのもいいんじゃないか」という意見も聞かれ、会場は全体があたたかいというか、納得感というか、大切な部分をもう一度思い出させてくれるような、そんな空気感に包まれました。
*ピアカウンセリングとは、同じような立場や悩みを抱えた人たちが集まって、同じ仲間としておこなうカウンセリングのこと。
こうして、議論が熱くなって来たところで、あっという間に井戸端会議終了の時間。
戸越さんやKさんの事例を通し、参加者のみなさん自身も生き方・働き方の「余白」を改めて考えるきっかけとなったのではないでしょうか?
今回の時間だけでは、これを実際やってみよう!という結論までは出ませんでしたが、こうして業種を超えた人たちと話すことで、さまざまな余白・可能性が見えてきた時間となりました。
今後のアクションは、今回出たアイデアをもとにKさんと一緒に話を重ねながら、探っていきたいと思います。ぜひ長い目で見守っていただけたら嬉しいです。
パネリストの戸越さん、ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!