CDLマガジン
MAGAZINE
vol. 184
profile
コミュラボ
ライター
9月4日、台風15号が宮崎県に接近する中、三股町ではまたしてもいろんなことが巻き起こっていた。

この日、コミュラボには「安心つながりプロジェクトチーム」を率いる内閣府職員3名が視察に訪れ、私たちの取り組みに関心を寄せてくださっていた。しかし、その傍らで、世界三股陸上の開催に向け、嵐の中をひたすら走り続ける一人の男の物語が、この特別な一日を忘れがたいものへと昇華させていったのだ。

台風の影響が心配される中、なんとか三股町に到着された内閣府のみなさんは、まずNAZOやコメーキングスペース コメなど、さまざまな拠点を視察。


各拠点ではプレイヤーたちとやり取りを重ね、「そういうことか…」と腑に落ちるような表情を見せていた。写真や報告で見聞きしていたことが、実際に肌で触れてみて納得できたという。
なぜ、内閣府の3人がこの小さな三股町にやって来たのか。その理由は、この後のディスカッションで明らかになる。

ディスカッションには「よる学校」コーディネーターや三股町長も参加し、ざっくばらんな意見交換が行われた。


そもそも「内閣府って?」と思っている人も少なくないだろう。簡単に説明すると、内閣府とは、国の重要な政策について企画立案・総合調整を行う組織のことだ。
さまざまな課題がある中、近年は人々のつながりの喪失による孤独・孤立の問題が特に注目されているという。内閣府では、この問題に対応するため、「*安心・つながりプロジェクトチーム」を立ち上げ、全国の有識者や地域の実践を参考にしながら政策を進めていることが説明された。


堀江さんによれば、これまで7回の会議が行われ、取りまとめられた報告書は、三股町の取り組みも参考にされたという。堀江さんは、「“課題”を入口にするのではなく、“好きなこと”や“やりたいこと”を入口にする『タグ付け』という考え方に気づかせてくれた三股町の取り組みを自分たちの目で見たかった」と、今回の視察の経緯を語ってくれた。

参考:安心・つながりプロジェクトチーム取りまとめ~お互い様のつながりづくり~概要(PDF形式:300KB)
実際に地域の居場所を見たみなさんは、どんなことを感じたのだろう?
地域のあらゆる拠点を巡る中、3人の関心は、孤独・孤立対策を“支援”としてではなく、どうすれば人が自然につながり、住民主体で支え合う仕組みができているのかということにあった。

民家の軒先に置かれたソファーが、居場所になっている様子を見たある内閣府職員は「のぼり旗を置くとか、そういう何気ない工夫が人の興味関心をそそるんですね。ただ真似をしても同じ結果にはならないかもしれないけれど、そこに何か大事な要素があるような気がする」と語っていた。
また、後半の議論では、居場所づくりに欠かせない「コーディネーター」の役割が中心テーマとなった。内閣府のみなさんも、コーディネーターの役割に注目している様子。

よる学校コーディネーターそれぞれが自己紹介をする中、彼らに共通していたのは、「地域を面白がる力」だった。

コーディネーターたちは、「よる学校は、地域住民が自分の興味や特技を活かして教室を開き、多様な人々がつながる場となっています。参加者は単なる受け手ではなく、教える側になることもある。課題解決ではなく、“面白い”を共有するところから始まるんです」と話す。
内閣府のみなさんは、居場所づくりには担い手の存在が不可欠だとし、コーディネーターの関わり方に、地域の人をどう巻き込み、どう支えていくかのヒントがあるように感じたと語ってくれた。

一方、この視察と同じ日に、もう一つのドラマが進行していた。
9月4日午前0時、三股町から100km以上離れた、宮崎県日向市美々津。

ある男が、一人静かにそのスタートラインに立っていた。彼の名は、まーぼーこと松田正俊さん。徒歩で日本縦断、世界中の大陸を横断してきた超人だ。今回の100kmマラソンは、なんと世界三股陸上の開催を知り、自ら「100km走ります」と名乗り出たという。

しかも、台風10号が接近する中、彼は真夜中からたった一人で、一睡もせず走り続けていた。台風の影響でよる学校の特別イベント「世界三股陸上」の中止が決定されたにも関わらず…
これは、9月4日14時頃。ゴールまであと20km地点の時の写真。

イベントが中止になっても、誰も見ていなくても真っ直ぐ続く道を、ただ黙々と走り続ける。
そんなマーボーからの実況を受けながら、私たちは心の中で「まーぼー頑張れ!」と応援し、議論を続けた。

午後6時前。
「そろそろまーぼーがワジマに到着するから行こうか!」
と、ディスカッションを終えた私たちは、全員でグローカルハウスWAJIMAへむかった。

午後6時頃、雨と汗でぐしょぐしょになりながら、マーボーが到着。

みんなの盛大な拍手と「おめでとうーー!!」という声と共に彼を迎える。

なんと!100kmを約16時間でゴールしたマーボー。
その表情は、疲れ切っていたものの平然とした様子で、完走した彼の姿に私たちの方が興奮していた。

「途中、世界三股陸上が中止と聞いて、がっかりしてリタイアしようかと思ったんです。でも諦めなくて良かった。みんなが迎えてくれると思っていなかったので、完走できて嬉しい。疲れた、、、」
そう語る彼に、彼の大好きなコーラが手渡され、ふわっと笑顔がこぼれる。
マーボー、走り切って勇気をくれて、本当にありがとう。

その頃、勢力を弱めた台風は過ぎ去り、まるで私たちを祝福してくれるかのように、夕日が雲の切れ間から差し込んでいた。
世界三股陸上は台風で中止になったものの、すっかり空が晴れたため、よる学校を楽しみにしていた数人の子どもたちが集まってきた。いつものようにドッジボールが始まり、マーボーも「ちょっとならやれるかな」とまさかの参加。内閣府の方たちまで一緒になって遊ぶ姿があった。

子どもたちは、お構いなしに「おじさん、ボール!」と叫ぶ。どんな肩書きを持っていたとしても、よる学校では一瞬にしてどこかへ飛んでいく。残るのは、同じ場を楽しむ人と人との関わりだけだ。

内閣府がやってきた!ということだけでも十分特別な一日だったが、この日、マーボーや子どもたちが教えてくれたのは理屈を超えた“何か”だった。
一日中「住民の主体性」「好きなことを入り口にする」など様々な議論をしてきたが、地域の人たちは、それらすべてを、ただ楽しむことで体現していたような気もする。

国の未来を描こうとする人たちと、ただ好きなことを貫いている住民たち。
肩書きや役割を超えて交わったこの日の出来事は、私たちに大切なことを思い出させてくれたようだった。
