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vol. 178

自分のためが誰かのために。レストランまさるからの恩送り

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2025.07.02

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「みんなが手伝ってくれるからできているんですよ」

開口一番、そう話すのは、三股町で半世紀近くレストランを営む「和風レストランまさる」の中西 チヅ子さん。チヅ子さんは、「周りの支えがあったからこそ、今がある」と語ります。そんな感謝の気持ちを胸に、地域食堂である「ぞうさん食堂」や年金前にだけ現れる「まぼろし食堂」を開いています。今回は、そんなチヅ子さんのこれまでの人生と地域への想いを伺いました。

料理を通して生まれるつながり

三股町で生まれ育ったチヅ子さんは、高校を卒業してすぐに農業協同組合へ就職しました。22歳の頃、当時船乗りだった夫・まさるさんと結婚されます。当時は子どもができると仕事を辞めるのが一般的だった時代。チヅ子さんも長男の出産を機に退職したものの、お母様のサポートがあり、すぐに森林組合に転職されました。

「私の母もずっと働いてきたこともあってか、母は『子どもの面倒はみるから働きなさい』と、私が働くことを応援してくれていました。夫は、元々船乗りだったのですが、船を降りた後は霧島のレストランなどに勤めていたんです。次第に自分の店を出したいと考えるようになり、夫自身の名前をつけた和風レストランまさるを夫婦でオープンしました。もう50年近く前のことになりますね。当時の三股には飲食店が少なかったので、昼も夜もとても忙しかったんです」

開業されたのは、お子さんが2〜3歳の時だったようで、店が忙しく、お母様に子どもたちを見てもらいながら、子育てと仕事を両立してきたのだと話します。約6年前に夫・まさるさんが他界した今、チヅ子さんは一人で店を切り盛りしています。夜の営業は予約のみで、昼の営業は、無理のない範囲で続けているとのこと。「夫が亡くなって、やめようかなって思うことは今でもあるのよ」と語るチヅ子さんですが、それでも店を開け続けるのには理由がありました。

「店は暇になってしまったけど、辞めたら自分がだめになってしまうと思って、自分のために開けているんです。例えば、3日店を休むと、3日目には身体が動きたくなってくるの。それに、今の時代は、自分から人がいる場所に行かないと、人と交流する機会が減ってきたなと感じるんです。私もできるだけそういう場所に行くようにしているのですが、店を開けることで、誰かと接点を持つことができるし、気持ちも頭もちゃんとする気がしています。…こうして、人生を振り返ってみると、私ずっと働いていますね(笑)。母に似てきたのかな。きっと死ぬまで働くんでしょうね(笑)」

肩をすくめて冗談まじりに笑うその姿からは、働くことを心から楽しんでいることが伝わってくるようでした。

「自分のため」に開くことで生まれる循環

そんなチヅ子さんがぞうさん食堂を始めたきっかけは、自身の経験からくる「恩返し」の気持ちだったと話します。

昔は仕事が忙しくて、母の力やいろんな人の力を借りて子育てをしていたので、私が受けた恩を今度は地域に返したいという気持ちから、地域食堂を始めたのがきっかけでした。 今は、いろんな境遇の家庭も多いだろうし、もしかしたら私の子どもたちと同じような境遇の子たちもいるのかなって思ったんです。料理は作ることができるから、それを活かして何か恩返しができたらいいかなと思って始めました」

2023年にぞうさん食堂、しばらくしてからまぼろし食堂がスタート。

「ぞうさん食堂は、手伝ってくれるみんなと協力して50食くらい準備しています。子どもから高齢の方まで、みんながワイワイ話しながら食べてくださる様子を見るのは嬉しいですね。手伝ってくださる人も近所の人だし、来てくれた人たちと親近感が湧くような感じがして、やっててよかったなって思います。自分から開かないと、一人でじっとしてたら誰ともつながれないもんね。そこで顔馴染みになれたら、『今度はいつ?』ってまた来てくれるし。私が話すのが好きだから、本当は自分のためなんです

地域への恩返しであると共に、自分のためでもあると話すチヅ子さん。チヅ子さんの活動について伺っていると、自分のためにと起こしたことが、自然と人と人がつながるきっかけとなり、喜びの循環が広がっているような感じがします。

人から助けられた経験を力に変えて

最後にチヅ子さんは、自身の人生について「人から助けられてきた人生」なのだと語ってくださいました。

私の人生は、みんなから助けられた人生なんです。若い頃は、日々の仕事にがむしゃらで、今のようなことは考える余裕がなかったけれど、夫を亡くし、全て一人でやらなくちゃいけなくなって、店も暇になった時、『あぁ、私はたくさんの人に助けられていたんだなぁ』ということをしみじみ感じたんです。人は、順調な時や忙しい時ってそんなことを感じる余裕がないですものね。だから、みんなに感謝しています」

過去を振り返り、ご家族をはじめ、大切な人たちへの感謝の気持ちを再確認するチヅ子さん。「地域のために」という想いは、これまで関わってくれた人たちへの感謝を、チヅ子さん自身がしっかり受け取ることができたからこそ、自然と湧き上がってきたものなのでしょう。その想いは、チヅ子さん自身が心地よくいられるための活力となり、それがまた周囲へと分かち合われているのだなと感じます。

私たちもまた、日々の暮らしの中で「誰かから受け取っているもの」に気づくことで、次の誰かに何かを差し出したくなるのかもしれません。
チヅ子さん、お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

<和風レストランまさる>
営業日:10:00~14:00 ※夜・仕出しは要予約
店休日:不定休
住所:三股町樺山4724−9
TEL:0986-52-5421

<ぞうさん食堂>
開催日:毎月第2土曜日 10:00〜13:00
場所:和風レストランまさる


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