CDLマガジン
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vol. 052
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蔵元 茂志
ライター
茂志がまだ神戸に住んでた二十年以上前、そろそろ三股に戻って自分で開業しようかと言うはなしになった時。三股にはまだ水洗トイレがないらしいと言う噂が聞えてきた。
そんなバカな!確かに茂志の実家にはなかったけど、三股にも水洗トイレくらいはあるっしょ? そう決め込んで帰郷すると、どうやらその噂はほんとだった。茂志の知るかぎり、あっても簡易水洗。結局は汲み取りしなければいけないやつだった。
それと同じくらいびっくりしたのが、三股の道路事情!側溝むきだしは当たり前、歩道は狭くて段差だらけ、点字ブロックなんて多分どこにもなかった(多分)。
さらに、路線バス。最初あるのかないのかまったく分からなかった。なぜなら、車社会があまりに進みすぎて、バスの『バ』の字も知らない人しか周りにいなかったから。 7年間大都会に住み、バスや電車を自由自在に乗りこなしてきた茂志にとって、正に浦島太郎状態だった。
余談だけど、今でも「バスとか電車なんて乗ったことないから乗り方分からんわ」って平気で言ってる大人が多いことに、ただごとじゃない危機感を感じている。
そんなこんなで、すっかり自由を奪われて途方にくれていた時に、思いがけず盲導犬のはなしが舞い込んだ。 茂志は最初うしろ向きだった。「盲導犬の訓練は自衛隊並みに厳しいらしい」とか、「盲導犬はストレスで普通の犬より早く死んでしまうらしい」などなど、嘘っぱちのネガティブな知識ばかり植えつけられていたからだ。 でも、どんなにあがいても以前のように自由にはなれなくて、とうとう茂志は訓練に行く覚悟をきめた。