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CDLマガジン

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vol. 122

おもしろがり力のススメvol.3

date

2024.03.11

Writer

すぎたまさし

profile

すぎたまさし

ライター

King Gnuとキツネと推しをめぐる冒険

 皆さんはKing Gnu(キングヌー)と言うバンドをご存知だろうか? 2019年にシングル「白日」がヒットし、紅白歌合戦にも出場した4人組のバンドである。最近では、アニメ「呪術廻戦」や様々なドラマ・映画などの主題歌も担当し、テレビやインターネットで目にする事も多い。

僕もアニメやラジオからKing Gnuの曲を耳にする機会は多く、90〜00年代のオルタナティブロックやミクスチャーロックなど好んで聞いている僕としてはすごく聞きやすい音楽である。

 ここで少し僕の妻の話もしておこう。妻は、音楽と言うものにほとんど興味がなく、普段は音楽を聴かない。音楽を聴くとしても、自分が10〜20代の頃に聞いていたジュディアンドマリーやaikoなどを思い出したように聞く位のものだ。
そんな妻が、ある日KingGnuにどハマりしてしまった。偶然YouTubeにアップされていたオールナイトニッポンで、ボーカルの井口理とaikoが一緒に「カブトムシ」を歌っている動画を見て井口の美声と子供のような人懐っこい仕草にノックアウトされたのである。

 King Gnuにどハマりした妻は、すぐに新しく発売されるアルバムを予約し、特典でついてきたチケット先行購入受付ナンバーをゲットし、福岡ペイペイドームツアーチケット2枚を見事手に入れたのである。チケット2枚を手に入れた妻は、ライブは妻と僕が行き、子供は義母を同行させホテルでお守りをさせるプランを計画し、ホテルの予約から航空チケットをすぐさま準備してしまった(その後、義父が「俺も行きたい」と言い出し計6人の大所帯になるのである)。

 正直なところ、僕自身はライブに行くこと自体そこまで乗り気ではなかった。家族を連れていくとなるとそれなりに費用もかかるし、子供を連れての移動や義父母に預けるというのもなんだか気が引けていたが、どハマりしている妻にその素振りを見せるわけにはいかない。なぜなら、妻はどハマりしているからだ。

 ライブ当日、同行した義父母に子供を預け夫婦で会場に向かう。

ドームの周りはものすごい数の人で溢れていた。その日、ライブには40,000人が参加することになっていた。さらにグッズ目的で来ている人たちもおり、会場周辺には50,000人ぐらいの人が集まっていた。これまで見たことのない人の数でその場の空気が薄くなるくらいに人が溢れ返っていた。

 ライブに参加している人たちの中には、バンドメンバーの格好を真似ている人も多く、皆似合わないパーマと生え揃わないヒゲをはやし、革ジャンを着込み、中には寒空の下短パンランニングを着て参加している強者もちらほら見かけた。若者だけではなく、50代位の初老のファンも多く、中には70〜80台位の年配の方も家族と一緒に来ていた。このバンドの凄いところは、幅広い年代の人々から音楽性を評価されているところだ。

 会場内に入る。開演まで皆ワクワクしながらライブが始まるのを待っている。会場全体に注意事項のアナウンスが流れ、一瞬会場全体が静まり返る。次の瞬間、会場全体が音と光に包まれ、派手な照明、炎の演出、湧き上がる歓声、全てが一体となっていき、まるで1つの生き物のようにまとまっていく。世代も性別も関係なく、King Gnuの音楽にみんなが酔いしれていく。約2時間あまりの時間がまるで一瞬のように過ぎていき、この時間が永遠に続いてくれと最後は思っていた。

 このライブ体験は本当に特別なものだった。ライブ以前とライブ後で、King Gnuというバンドの捉え方が180度変わってしまった。どうやらKing Gnuは、僕にとっての推しになってしまった。ライブ後、これまで発表している楽曲を念入りに聞くようになったし、SNSでもメンバーの動向を気にするようになった。バンド開始時のインタビュー動画を見たり、メンバーのルーツである音楽を聴いてみたりと嗜好の一旦までKing Gnuに影響されている始末である。

10代の頃、くるりやpavementを熱心に追っかけて聴いていた時以来に久しぶりに誰かを推している状態で、自分のこと以外でこんなに多幸感を感じたり、SNSで誰とも知らないヌー民(King Gnuのファンの通称)のコメントに共感したりつながりを感じたりと、思ってもいない充実感を感じている。

 このKing Gnuが推しになった状態だが、なんだか「星の王子さま」の中のキツネのエピソードと似ているなと考えている。

 キツネは、王子様に対して僕を飼い慣らしてくれと言う。王子様とキツネは一緒に過ごすことで、二人(正確には一人と一匹)は時間を共有し、相手を理解することで絆を深めていく。キツネは王子に言う「おれは麦がなくても困らない。麦畑を見ても何も感じやしない。・・・(省略)でもきみは金色の髪をしてる。きみが飼い慣らしてくれたら素晴らしいだろうなぁ!金色の麦はおれにきみのことを思い出させてくれる。そしておれは麦畑を吹く風の音だって好きになる・・・。」
キツネは王子と絆を深めることで麦畑も愛おしくなる。王子との別れが来たとしても、黄金の麦畑を見る事で王子を永遠に感じることができる。

 ライブに参加した後、僕はKing Gnuを推し始めた。それは、ライブに参加していた人やファン同士とのつながりを確かめる行為のようにも感じる。何より僕と妻との繋がりは深くなったし、多分、妻が先に亡くなったとしたら僕はKing Gnuの曲を聴いた時、ふたりで行ったライブ、井口理のことを楽しそうに話している様子、車の僕の横で曲を聴いている妻のことを思い出すだろう。

 誰か(もしくは何か)を推す行為とは、その誰かと繋がることかもしれないし、もしかしたらその先にある知らない彼や彼女と繋がることなのかもしれない。たぶん、それはきっと人生を豊かにしてくれるし、意味を持たせてくれるのではないかと思う。
“人生はきっと素晴らしい”そう思えることは、言い換えれば人生を面白がれているとも言えるのではないだろうか。何かを推すということは、人生を面白がる手段として、きっと有効に働いてくれるはずだ。今推しがない人も、これと決めて何かを推してみることをオススメする。初めは、なかなか推しきらないかもしれないが、じっくりと腰を据えて推し続けることで、きっと人生の何かの意味を持つはずだ。

きっと推しをめぐる冒険の先に人生を面白がるヒントは隠れている。

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