CDLマガジン
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vol. 174
profile
堀田一希
ライター
和歌山から宮崎県三股町に移り住んで、四年になります。堀田一希と申します。
以前コミュラボマガジンで書かせていただいたご縁もあり、今回、この町で妻が営むNAZOというお店と、そこで生まれている温かい物語について、皆さんにお伝えしたいと思います。
僕と妻は、以前は和歌山で暮らしていました。僕が宮崎へ移住することになり、妻も共に来てくれたのですが、見知らぬ土地での暮らしに、当初は少なからず不安もあったことと思います。
そんな中、移住して一年ほど経った頃、妻は三股町でコミュニティデザインラボの皆さんが進めるNAZOというプロジェクトと出会いました。服好きが高じて、いつか自分のお店を持ちたい、服に関わる仕事がしたいという妻の長年の想いが、この場所で、思いがけない形で実現に向けて動き出した瞬間でした。
古い建物を自分たちの手で改修し、壁を塗ったり、棚を取り付けたり。
DIYに悪戦苦闘しながらも、お店が少しずつ形になっていく過程を傍で見ていると、妻の目がどんどん輝いていくのが分かりました。それは、単に「お店を作る」ということだけでなく、彼女の中にあった情熱が、この三股町という場所で、確かに根を張り始めている姿でした。
そして、2024年4月27日、NAZOは静かにオープンを迎えました。
NAZOがオープンしてからのこの一年。お店は、妻にとって、そしてこの町の人々にとって、様々なものが生まれる場所となりました。
妻はお店番をしながら、様々なお客さんと言葉を交わします。服の話題はもちろん、おすすめのお店やイベントのこと、時には個人的な悩みまで、話は多岐に渡ります。
近所のおじちゃんが採れたての野菜を「これ、食べてみて」と届けてくれたり、散歩中の高齢の方が「まあ、頑張ってるね」と声をかけてくれたり。まるで、昔からここにあった地域の寄り合い所のような雰囲気です。
妻が、お店という場を通して、三股町の人々と自然に繋がり、心から楽しそうに過ごしている姿を見るたびに、僕はこの町に来てよかった、と強く感じます。そこにあるのは、計画された交流会やイベントだけではありません。日々の暮らしの中で、当たり前のように生まれる、飾らない人との繋がりです。その温かさが、NAZOという空間には満ちています。
そして今年の5月17日、NAZOは無事に1周年を迎え、それを記念したフェスが開催されました。「NAZOの軌跡」と題したこのイベントには、これまでNAZOを支えてくださった地域の方々や、NAZOに関心を寄せる方々が集まってくれました。
会場に設けられたNAZOステージでは、三股町で活躍する若者たちがパフォーマンスを披露してくれました。蒼瀬さんの心に響く弾き語り、しまりすさんの軽やかなウクレレ、そして友人であるDJ haruyaのグルーヴィーなサウンド。それぞれのフィールドで「面白い」を追求している人たちが、NAZOのお祝いに駆けつけてくれたのです。
また、さすらいのナゾトキニストさんによるNAZOを使った謎解きイベントも開催され、参加者は知恵を絞りながら楽しんでいました。大人も子どもも一緒になって、一つの謎に取り組む。そんな光景も、この町の持つ温かさを象徴しているようでした。
イベントの最後は、「NAZOの1年とこれから」をテーマにしたトークセッション。
巷で噂のよる学校コーディネーターの徳留さんが聞き手となり、妻がこの1年間で経験したこと、感じたこと、そしてこれからのNAZOへの想いを語りました。
人前で話すのは得意ではない妻ですが、徳留さんの引き出し上手なトークと、会場からの温かい眼差しに支えられ、自然な言葉で自分の気持ちを伝えているように見えました。その姿を見て、この1年間のNAZOでの日々が、彼女にとってどれだけ大きなものだったのかを感じ、僕も胸が熱くなりました。笑
フェスの会場には、いつもNAZOに顔を出してくれる常連さん、友人、そしてこのイベントをきっかけに初めて三股町に来てくれた人。様々な立場、様々な背景を持つ人たちが、NAZOという小さなお店を中心に集まり、共に時間を過ごしていました。
思えば、NAZOは、最初は妻の「服が好き」という想いと、コミュニティデザインラボの「何か面白いことをしたい」という情熱から生まれた小さな種だったのが、この一年、地域の人々の温かい関わりという水をもらい、少しずつ、しかし確実に育ってきたのだと感じます。
この三股町で暮らし、NAZOという場所を通して様々な人々と関わる中で、私が感じていること。それは、この町には、メディアで取り上げられるような派手な出来事や、一般的に「すごい」と言われるような功績を持つ人ばかりではない、ということです。
しかし、ここには、それぞれの場所で、それぞれのやり方で、目の前の日常や、自分の「好き」を心から「面白がり」、それをきっかけに人との繋がりを育んでいる人たちが、確かにたくさん息づいています。農家さん、お店の人、アーティスト、そして妻のように小さなお店を構える人。皆が、自分の足元にあるものを大切にしながら、この町での暮らしを楽しんでいます。
NAZOも、そんな「ローカルを面白がる」妻が、地域の人々と共に育んでいる場所です。派手なことは何もありません。でも、そこには、人と人が繋がり、互いを認め合い、共に楽しい時間を過ごす、かけがえのない温かさがあります。そして、この三股町には、NAZOのような、それぞれの「面白い」から生まれた場所やコミュニティが、きっともっとたくさんあるのだと思います。
もし、あなたが今、何か温かい繋がりを求めているなら。もし、あなたが今、自分の足元にある「面白い」を見つけたいと思っているなら。ぜひ一度、宮崎県三股町を訪れてみてください。そして、もしよろしければ、NAZOという小さなお店にも立ち寄ってみてください。妻と、この町の温かい人々が、きっとあなたを笑顔で迎えてくれるはずです。
この三股町という場所で、あなたの心に響くような、新しい「面白い」との出会いがあることを、心から願っています。
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