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vol. 121
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2月15日(木)第3回となる居場所の解剖学を実施。今回は、兵庫県立人と自然の博物館の研究員である福本 優さんをゲストに、環境や建物など「場」から考える人の居場所を解剖しました。
「場」をどう設定したら居場所になりうるのか、今回もかなりヒントの多い回となりました。
■前回までの振り返り
■ゲスト紹介
ー事例:Bar Bridge
ー公共空間を居場所にするための4つのポイント
■解剖トーク
ーハシゴ=居場所への接点
ー居方を選べること
ー解剖図
■次回の開催について
前回は、「交流」から考える人の居場所をテーマに解剖。「場」や「人」の出力の変換について深掘りしましたが、今回はさらに深く「場」の要素であったり、その場にいる時間軸も話題になりました。
▷第1回レポート/居場所の法則(仮説)はこちら
▷第2回レポートはこちら
福本さんは、兵庫県立人と自然の博物館の研究員をされています。専門は、都市計画。特にニュータウン再生や地域計画づくりを行っているとのこと。
ハウスメーカーで現場監督をされた後、まちの不動産屋でまちづくりの経験を経て現職。
博物館のエントランス空間にある、誰にも使われていなかった芝生空間を、みんなが居ていい芝生空間に変えるため、月に一度の「そとはく」というイベントを5年間継続。その活動により、現在は多様な人の居場所として利用されるようになったそう。また、博物館の宝箱とも言える新収蔵庫の企画、設計、施工、運営まで携わり、博物館に興味がない人でも居やすい空間を創造されています。
さらに、大阪府箕面市では、鉄道駅前の歩道橋をみんなの居場所にするために、即席Barイベント「Bar Bridge」を地域の人たちと協働して実施するなど、ここ数年は、公共空間がよりみんなの居場所になるよう活用に取り組んでいらっしゃいます。
福本さんからは、4つほど事例を挙げていただきましたが、今回は先ほどご紹介した「Bar Bridge」についてご紹介します。
ここは、2024年3月に新たな鉄道駅ができる場所。元々市民活動が行われていた駅に大阪の大動脈となる路線が伸びてくるということで、商業活動だけにとどまらず、そこに住む市民も居られる場所にしたいという相談から活動が始まったのだそう。
まず、福本さんは、関係者や登場人物を増やすため、橋の上にバーをつくりました。クワガタ好きの人がひたすらクワガタについて話すバーや、葬儀屋さんが「SOUGI’s Bar」と題し、葬儀あるあるを話すバーなど、さまざまな人にバーテンダーとして関わってもらったと言います。
バーは、先月ホストをやった人が来月はゲストになれたり、その逆もありうるような、ホストとゲストが毎回入れ替われる仕組み。そうすることでいろんな居方ができることの重要性に気づき、いろんな居方ができると公共空間としての厚みも変わってくることを感じたと、とても面白い事例をご紹介くださいました。
※「居方」については、後に詳しく触れています。
さらに、福本さんはこの居場所の解剖学で解剖をするにあたり、福本さんの視点をまとめてくださったので、一部ご紹介します。
①付近を通り過ぎれること
見える、見られるような関係が生まれる空間をつくる。
②おっ!と思える出来事がある。無関心からの脱却
①の空間の中でさらに「おっ!」と思える出来事があることが大事。「おっ!」っと思えると、無関心から脱却して、見てみようかなと思えたりする。
③ふらっと参加できる出来事がある。風景に参加できる。
「Bar Bridge」は、飲み物を買って、そこに 座ってお酒を飲むことができたり、いろんな参加の仕方がある。「おっ!」っと思って、いい感じの公共空間の中で、そのまま過ごすことができると、何もしていなくても風景に参加することができる。
④「やりたい」を実現できる場である。
「場」において、その活動自体を地域の人がホストとしてつくるなど、誰かの「やりたい」を実現できる場になっていると、より具体的に風景をつくるような形で参加することができる。
確かに、人が集まっている場を振り返ってみると、こういったポイントが少なからずあるような気がします。福本さんは、段階に応じて、さまざまなパターンでの参加の仕方をつくるということが、公共空間を居場所にするためのポイントなのではないかとお話しくださいました。
福本さんの事例とポイントだけで、1冊の本ができるのではないかと思うほど、ヒントだらけのイントロダクションでしたが、今回はそれを受け、ホストであるデザイナーの平野が事前に図を作成したので、それを元に話を進めていきます。
こちらは、公共空間の場の出力の変化を図にしたものです。「Bar Bridge」がどのように居場所化していったのか、その経過と共に変化する様子を表しています。こうしてみると、福本さんが先に紹介してくれたポイントが随所に散りばめられていることがよくわかりますね。
橋は人が行き交う場所ではありますが、長時間人が留まる場所ではないはず。事例では、橋とバーを掛け合わせることで、人々の新しいタッチポイントになっているように思えます。このとき福本さんは、どのような視点でタッチポイントを変えていたのでしょうか?
「バーの事例で言うと、図①にある、タッチポイントから居場所未満にかかるハシゴがバーと言えます。ただの橋ではありますが、空間として人が通る場所なので、誰かのタッチポイントにはなりますよね。居場所になるためには、フックとなるようなものがないとくっつけない。おそらくハシゴは、いろんな種類があったほうがよくて、本数が多ければ多いほど居場所未満に行ける人も増えるかもしれません。」
第1回の解剖学であったように、タッチポイントは、その場に来る人自身が興味関心を持つかどうかによるので、コントロールはできないもの。しかし、何かしらの場を開きたいとき、居場所を増やしたいコーディネーターはタッチポイントを意図的に設定することが必要なのだろうと考えられます。
タッチポイントがうまく設定できたとしても、そこがいつもいられる空間かどうかというのは、ハシゴを上った居場所未満のステージにおける環境設定にも関わってきそうな予感がします。
福本さんによると、公共空間が居場所になるためには、居方を表明し、選べることも大切だとのこと。居方という言葉を、その場に居ることの意味や居心地の良さみたいなものと解釈したとすると、その場に居る人が長い時間過ごせるか、そこで自分の思っていた係を消化できるかどうかも大切であるとのこと。
「例えば、バーテンダーになれと言われた人が、事務机の前ではその係になりきれませんよね。Bar Bridgeでは、カッコいいロゴを作ったりして、そこに居る人の気分が上がるように設定にしました。つまり、そこに係として来る人に照準を合わせて、整合する空間になっているかということが大切。行動と見えている景色がリンクすると、多くの人にとっての居場所になるのではないでしょうか。」
と福本さんは語ります。
確かに、自分自身を振り返ってみると、長く居たくなる場所というのは、自分がそうありたい気分(係)でいられる場所ではありませんか?
気分が盛り上がるような環境のしつらえ(空間や部屋の演出)は、ホスト(プレイヤー)にもゲスト(場に居る人)にも、居方を示す上で大切なポイントだと言えるかもしれません。
ここまで、居場所となる環境の要素について解剖してきましたが、解剖学に参加しているみなさんは、ゼロから建物を建てるというより、すでにある建物を使って、居場所の創出に関わる方が多いはず。最後に、居場所を増やしたいコーディネーターが、すぐにでも実践できるような意識すべき点を福本さんに伺ってみました。
「おそらく、みなさんは無意識にやっているかと思いますが、居方を選べるというのは、その空間を間仕切りをしたり、机や椅子を置く場所をちょっと変えたり。物の置き方や飲み物を出すタイミングなど、ほんの少し変えるだけでもその環境や居方はかなり変わってくるんですよね。だから、僕もそれを繰り返しやり続けている感じです」
上の図は、ここまでの解剖トークで出た「場」の環境を設定する際の5つポイントについてまとめた図です。そして、右側の図は「福祉の専門職に相談できるハシゴを作るには?」という、視聴者からの質問に答えたもの。例えば、専門職がバーをする場合にも、葬儀屋さんがバーテンダーをするのと同様に、いくつかのポイントを押さえながら“〇〇のふり”をして環境に溶け込むことで、これまで接点がなかった層との接点を生み出せるかもしれません。
今回の解剖学は、人が感覚的に居心地がいいな、居たくなるなと感じるようなポイントを、福本さんの建築的な視点からかなり言語化していただいたような気がします。「場」の設定において、居場所を増やしたいと思っているコーディネーターが、見落としがちな環境設定から居場所につながるまでのかなり重要な要素が得られた解剖学となりました。
次回の居場所の解剖学、2024年3月12日(火)です。
第4回は、ひと・ネットワーククリエイター/広場ニストの山下 裕子さんをゲストに、「偶然性から考える人の居場所」を解剖します。
「偶然性」というものに関心があるという山下さん。果たして、どんな解剖が繰り広げられるのでしょうか。次回もぜひお楽しみに!
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