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vol. 145

【居場所の解剖学レポート】#8.「アウトリーチ」から考える人の居場所

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8月8日(木)に実施した第8回は、認定NPO法人フローレンス(以下、フローレンス)会長 / 一般社団法人こども宅食応援団 代表理事 駒崎弘樹さんをお招きし、「“アウトリーチ” から考える人の居場所」について解剖。最終回を前に、「居場所」の構造に関する仮説もアップデートされ、「居場所」の概念がまた一歩広がるような回となりました。

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ゲストの駒崎さん(右下)といつものホストメンバー

目次

■前回までの振り返り
■ゲストトーク
ーアウトリーチでつながる意味〜こども宅食より〜
ーゆるやかにつながるためのプロセスや工夫
■新しい仮説:「居場所」の促進要素の存在
■解剖トーク
ー1対1の関係性から立ち現れる居場所
ー多様な関わりによる「しなやかな居場所」
ー自由選択になった現代の「居場所」のあり方とは?
■次回開催について

前回までの振り返り

6月11日(火)に開催した第7回では、九州大学大学院人間環境学研究院専任講師であり、社会福祉士の田北雅裕さんをゲストに「デザインから考える人の居場所について解剖しました。振り返りたい方は、下記リンクからご覧ください。

第1回レポート/居場所の法則(仮説)はこちら
第2回レポートはこちら
▷第3回レポートはこちら
▷第4回レポートはこちら
▷第5回レポートはこちら
▷第6回レポートはこちら
▷第7回レポートはこちら

ゲストトーク

今回のゲストである駒崎さんは、2005年に日本初の「共済型・訪問型」病児保育を開始。2010年より待機児童問題解決のため「おうち保育園」をスタートさせ、のちに小規模認可保育所として政策化されました。その他、日本初の障害児保育園へレンや障害児訪問保育アニー、赤ちゃん縁組事業、こども宅食事業などを行っておられます。現在は、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、こども家庭庁「子ども・子育て支援等分科会」委員等、複数の公職を兼任されています。

フローレンスが取り組んでいるこども宅食事業は、アウトリーチの手法の一つであると話す駒崎さん。ここで指すアウトリーチとは、困り感を抱える人をただ待つだけではなく、能動的に出会いに行く、あるいは偶然の出会いのようなきっかけをつなぎ合わせていくことを意味しています。まずはゲストトークとして、こども宅食の取り組みやアウトリーチをする上での工夫などについてお話しいただきました。

アウトリーチでつながる意味〜こども宅食より〜

こども宅食のプロセスは次のとおりです。「食」をフックに、さまざまな家庭とつながり、関係性を築きながら、その家庭に必要な支援へとゆるやかにつなげることができます。現在は、そのモデルをさまざまな地域や団体が独自のアイディアを取り入れながら、全国に広がりを見せています。

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このこども宅食ができた背景について、駒崎さんは次のように語ります。
駒崎「支援者としてサービスを提供していても、実際には困っている世帯は誰にも助けを求められず孤立しているというケースも少なくありません。孤立が発生するのは、SOSにつながらない複合的な理由があり、本人と支援先の間にさまざまな障壁があるからだと考えています」

例えば、フローレンスやこども宅食応援団体には「生活が苦しいけど誰にも知られたくない…」「昔支援を受けた時に嫌な思いをした…」「仕事をしながら平日の窓口に行く余裕がない…」などといったリアルが声が寄せられているとのこと。本人と支援先の間には、支援へのアクセスのしづらさや心理的な障壁をはじめ、時間/金銭的余裕のなさ、そもそも困っていることに気づいていない等、SOSを出しづらい障壁が存在しているのです。だからこそ、アウトリーチの手法により、能動的につながっていく必要があるのだと駒崎さんは話します。

ゆるやかにつながるためのプロセスや工夫

では、具体的にどうやってつながっているのでしょうか。こども宅食の手法を世の中に広げ、全国の団体を応援する「こども宅食応援団」を立ち上げた駒崎さんは、そのプロセスや工夫のポイントを次のようにまとめてくださいました。

①できるだけ自然に始める
関係機関が見守りをしたくても、本人たちが支援を求めていない消極的なケースも多い。「助けてあげる」ではなく、「余ったからもらってほしい」など、自尊心が傷つかないようできるだけ自然に始めるように配慮する。食品などは、誰もがもらっても嬉しく、フックとして機能しやすい。
②ふつうの人が届ける
「福祉の人」や「支援者」などの専門家のようなかしこまった雰囲気ではなく、非専門家だからこそ、義務ではない適度な距離感や自然な声かけにより、警戒されずに関係性が築けることもある。
③自宅や玄関先など、安心できる場所・空間で会う
他者が集まる場所では見せない家での顔や、普段の様子などを知ることができる。利用者からも、周囲の目を気にしなくて済む、会ったばかりの人と長時間話し込むことがないという声もある。
④温度感を出して、食糧給付にならないようにする

ただの食糧給付ではなく、「食」のお届けで少しでも楽な気持ち、安心した気持ちになってもらう。もらって嬉しいと思ってもらえるような、あたたかさも一緒に届ける。

つまり、こども宅食は、ただ何かを「届ける」のではなく、人の感情を反映させながら設計されているということです。

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しかし「支援を受けづらい状況にある家庭」のリアルな背景は、多種多様に存在しています。例えば、つながりは求めていないと口では言っていても、実はそうではないことも少なくありません。駒崎さんは、どんなに一人が好きだという人でも、どこかでつながりを求めているのではないかと話します。

駒崎「人の感情は、常に一定というわけではなく、実はシーソーのように揺れ動いているものなのではないかと思うんです。一人になりたいこともあれば、誰かとつながりたいときもありますよね。そういった感情のマーブル模様のようなものが、人の心の中には存在しているような気がしています

そして最後に、「居場所」とアウトリーチとの観点から、時代の変化とともにさまざまな手段で自由につながれる今だからこそ、「しなやかな居場所」の在り方というものについて、新たな問いをいただきました。

新しい仮説:「居場所」の促進要素の存在

居場所の解剖学も佳境に入り、過去のゲストトークを整理する段階に入った居場所の解剖学チーム。その中で、初回から仮説としていた居場所の構成要素「人」「場」「係」は、もしかすると、さらに3つのメカニズムに分かれているのではないかということに気づきました。振り返りになる部分もありますが、改めて簡単に解説します。

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※8/8のライブ配信よりさらにアップデートされた図となっています

要素として、「人」「場」「係」の3つがあり、それらが全て揃うとき「居場所」が生まれやすい構造になるということは、これまで仮説として説明してきたことと変わりません。
メカニズム(仮説)の図にある3つ目の「プロセス」は、「居場所」が生まれる経過を指しています。そこで、ゲストのトークを丁寧に振り返ってみると、「居場所」を解剖しながらも、実は「居場所」が生まれやすくなることを促進するような事例が多かったことがわかりました。そこから、それらがどういう要素なのかを分析・抽出したものが、新たな仮説である「居場所」の促進要素です(下図)。

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例えば、「人」における促進要素は、多面性があると「居場所」ができやすかったり、人によってはトキメキ性や非専門性があるとより居場所ができやすかったりするのではないかと考えられます。しかし、これらはまだ検討段階。全シリーズが終了した後、さらに探求し、最終的には「居場所の解体新書」としてまとめていく予定です。

解剖トーク

これらの新仮説を踏まえ、いよいよ駒崎さんとの解剖トークに入っていきます。先に述べた通り、アウトリーチとは、困り感を抱える人に能動的につながっていくこと。解剖トークでは、そのアウトリーチと「居場所」という概念の関係性について、興味深い議論が展開されました。

1対1の関係性から立ち現れる居場所

駒崎さんは、「アウトリーチは、居場所に来てもらう従来型の居場所とは異なるが、アウトリーチによるお互いが補完し合うような関わりが、結果的に小さな居場所のようになっている気がする」と話します。
アウトリーチと居場所の関係性について、三股町社会福祉協議会で実施しているこども宅食「みまたん宅食どうぞ便」を立ち上げたコミュラボの松崎は、次のように語ります。

松崎「私自身も、駒崎さんとの対話の中やこども宅食の取り組みから、アウトリーチを学ばせてもらった一人です。“居場所”と言うと、物理的なものをイメージされるが、自分と相手という1対1の関係の中で、心地が良かったり、玄関先のちょっとした会話で“係”のようなものが生まれているかもしれない。そうしたとき、本人が“居場所”と認識していなくても、“居場所的なこと”がその人の中に起きているのではないでしょうか」

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アウトリーチは、物理的な「居場所」につなぐための手段として捉えられがちですが、その関係性の中に「居場所的な機能」が気づかないうちに生まれていることもありそうです。
「制度」に落とし込まれてしまうと、どうしてもラベリングされた物理的な「居場所」に着目されてしまいますが、実は名前がつけられない「居場所」のようなつながりは地域にたくさん存在するのかもしれません。アウトリーチと「居場所」は、対概念ではなく「居場所」という概念の中に、アウトリーチでつながった1対1の関係性から立ち現れる「居場所的なもの」があるのではないかという議論が繰り広げられました。

駒崎さんは「アウトリーチや日常の関わり合いの中で居場所を生み出すことが相互にできるのであれば、私たち自身にも誰かの居場所になれる可能性があるかもしれない。そう思うと、勇気づけられますね」と話します。この言葉に、視聴者の私たち自身も希望が感じられるようでした。

多様な関わりによる「しなやかな居場所」

アウトリーチで出会うからこそ生まれる可能性という発見もありますが、関わる人の持ち味によっても、そこで生まれる関係性は変わってきそうな気がします。海外では、アウトリーチする人を「アウトリーチャー」と呼び、アウトリーチの専門性が確立されている国もあるようです。
それに対し駒崎さんは、専門家だけではなく、非専門家である「普通の人」が場に関わることで、より「しなやかな居場所」になることが大切ではないかと示唆します。

駒崎「今後、もしアウトリーチが社会実装されて社会のインフラのようになったとしたら、スキルにばらつきが出ないようアウトリーチの専門職のようなものが日本でも確立されていくかもしれません。しかし、現状の社会がそうであるように、専門家だけでは福祉は成り立たない。制度や専門職では埋められない隙間を埋めるためには、非専門家である地域の人たちも含め、みんなで支えていく必要があるのだと思います。いかに“普通の人”を巻き込んだ福祉をつくり、社会設計の中に入れられるかという視点は大事かなと思いますね」

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こども宅食の手法が、地域や団体に合ったさまざまなやり方で実践されているように、そこには福祉専門職や地域の商店の人などいろんな人たちが関わり、十人十色の関係性が生まれているはずです。地域に「居場所」を増やしたいコーディネーターは、「これが正解だ」と決めつけるのではなく、地域にはさまざまなグラデーションが存在していることを理解し、全体を俯瞰できる視点をもつと、よりしなやかさを兼ね備えた居場所になっていくのかもしれません。

自由選択になった現代の「居場所」のあり方とは?

さて、フローレンスでは、LINEやAIチャットなど、デジタル技術を活用したサポートも実施されているとのことですが、そのようなデジタル技術等により、つながり方も自由で多様な社会となっています。終盤では、前半に駒崎さんからいただいた「個人がつながりを自由に選ぶことが前提になった現代に合わせて、どんな居場所を新しくつくっていくべきなのか」という問いについて、議論していきました。

駒崎さん「今の世の中は、便利で何でも自由に選択できる。もしかすると、小学校に行くという義務があるから友だちができたが、もし行かなくてもいいとしたら、自由すぎて何も選ぶことができず孤独になるかもしれません。また、今は寂しいとき簡単にSNSで外の世界とつながれるが、本当の意味で心はつながっていないと感じる人がいる可能性もあります。自由に選択できるからこそ、この時代をどう生きていけはいいのかということについては、新しい哲学が必要なのではないかと思いますね」

確かに、自由になるほど精神的負担を感じてしまうという感覚は、誰もが一度は感じたことがあるのではないでしょうか。コミュラボ・松崎は、第4回の「偶然性から生まれる人の居場所」を振り返りながら、次のように話します。

松崎「広場ニストの山下さんの話にあったように、あえて“偶然性”を生み出すような場をつくることで、新しい何かが創造されることもあるのかもしれないと思います。自分で選択していくことは大切なことだけれども、普段出会わない人と出会ったことで孤独の解消になることもあるかもしれない。だからこそ、予想もしない“偶然性”を地域の中に散りばめていくことは、孤独・孤立対策の要素として必要なのかなと考えたりもします

アウトリーチは、本当につながりを必要としている家庭に一歩踏み込んでいくような、ある種おせっかいな行為でもあるとも言えます。駒崎さんは、「その設計されたアウトリーチの中に“偶然性”があるような、立体的かつ複合的な設計がなされるといいのかなと思う」と話し、人のつながりを立体的に捉える視点に気づかせてくださいました。

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最後に感想として、駒崎さんは次のように締めくります。
駒崎「今回の解剖トークでは、公的機関がお金をかけてつくる“居場所”だけではなく、日常で生まれる関係性の中で“居場所のように”なっていく文化のようなものをつくっていけるのかもしれないと感じました。誰かは誰かの居場所になれる可能性があるとしたら、それこそが我々の社会を生きやすくかつごきげんな社会にするのではないかなと思います

アウトリーチという視点から「場」の概念がまた一つ広くなった第8回の解剖学。最後の駒崎さんのコメントでは、最終回のゲストである、全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長 湯浅誠さんが提唱する「誰もがごきげんに暮らせる地域」というキーワードにも触れられ、最終回への橋渡しをしていただいたようなまとめとなりました。

次回開催について

次回は、2024年9月25日(水)。ついに最終回となる第9回を迎えます。
ゲストには、社会活動家であり、全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長を務める、湯浅 誠さんを迎え、「居場所のこれから」について解剖します。

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