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vol. 117
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コミュラボ
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1月17日(水)、第2回目となる居場所の解剖学を実施。
今回は、株式会社ここにある 代表取締役 / 場を編む人・藤本 遼さんをゲストに迎え、「交流」から考える人の居場所をテーマに解剖していきました。
■前回までの振り返り
■ゲスト紹介
ー事例
■解剖トーク
ー場のタッチポイント
ー場の”出力”を変える
ー人の”出力”を変える
ー解剖図
■次回開催について
第1回目は、「支える」から考える人の居場所というテーマで解剖を行いました。そこでキーワードとして出た「being(あり方)」は、今回にも紐づいてくる部分があるようです。
第1回のレポートに、居場所の解剖図/定義についてもまとめています。
下記からご参照ください。
▷第1回レポート/居場所の法則(仮説)はこちら
今回のゲストである藤本さんは、自身の地元である兵庫県尼崎市を拠点に、多様な人と場を掛け合わせ、「すべての人が楽しみながら、わたしとしての人生をまっとうできる社会」を目指し、さまざまなイベントやプロジェクトを進めています。キーワードは、「いかしあう生態系の編み直し」。
現在は、多様な主体や個人が関わり合いながら進める地域イベントのプロデュース、共創的な場づくりやローカルデザインに関するコンサルティングやプロジェクトマネジメントなども手がけています。最近では、行政のみならず、企業と連携しながら進めるプロジェクトも多いとのこと。
『場づくりという冒険 いかしあうつながりを編み直す』(グリーンズ出版)も執筆されているいるので、気になる人は要チェックです。
藤本さんが手掛けたプロジェクトの代表的なものには、「ミーツ・ザ・福祉」「カリー寺」「おつかいチャレンジ」「グッド!ネイバー!ミーティング!」「武庫之のうえん」などがありますが、今回は解剖トークで触れる「カリー寺」についてご紹介します。
今や全国に広がる「カリー寺」は、2016年に尼崎市にあるお寺・西正寺で始まったものです。
カレーや音楽を楽しむこのイベントは、「お寺とカレーって、なんか相性よさそう」という藤本さんの思いつきからスタートし、1回目からなんと約500人もの人が集まったのだとか。
地域の人たちや檀家さんなど様々な人を巻き込み、年1回開催しているとのことですが、継続するうちに、参加者の「こんなことやってみたい」」という声から企画が生まれたり、檀家さんとの交流も深まっていったりしたと言います。
さらに、カリー寺を通して、「住職」という普段の役割だけでなく、いろんな側面が垣間見え、地域のつながりや基盤づくりの場となっているとのこと。現在は、イベントというより、地域の寄り合いのような場になっているようです。
福祉領域だと、居場所をつくる際「誰かのために」ということに意識が向いてしまいがちですが、藤本さんの場合は少し違うようです。
藤本さんは「場を編む人」として、どんな視点で交流が生まれる場づくりをしているのか。今回はその辺りを深掘りしていきます。
ここからがいよいよ解剖トークです。
まず気になるのが、カリー寺になぜそこまで人が集まるのかということ。
普段、私たちがお寺に行くのは、葬儀や法事をイメージしますが、入り口であるタッチポイント(接点)をどう設定するかで、人が来るかどうか大きく変わってくる気がします。
カリー寺は「面白そう」から始まったプロジェクトとのことですが、大きなポイントとなったのは、「何か新しいことをやりたい」というマインドを持った住職と藤本さんの出会う接点がそれ以前にあったこと。
藤本さんと住職との出会いは、尼崎市で年1回実施している「みんなのサマーセミナー*」だったようです。
(*みんなのサマーセミナーは、年齢や立場を問わず、学びたい人は誰もが生徒、伝えられることがある人は誰もが先生になれる場。みんなで考えたり、創ったりしていくことが面白いというマインドが共有されている。)
そういった「何かやりたい」「みんなでやると面白い」というマインドを持っている者同士が出会い、「普通の寺でカレーを食べる」というイベントを実施したことで、今まで寺と関係のなかった人たちとのタッチポイントが増え、寺に人が集まるきっかけとなりました。
タッチポイントが増えるというのは、「場」の出力を変換するということにも繋がっていくかもしれません。
ここで言う、出力の変換とは、場や人のエネルギーの出し方が変わる働きかけのことを指します。
寺の場合、「普段はあまり行かない普通の寺」で「カレーを食べる」という行為によって、「カリー寺」に変換され、行きたくなる場所になったと言えます。
最初のアイディアは「面白そう」というきっかけだったかもしれませんが、そこにはクリエイティブの視点で意図的に操作して面白くする部分と、一般の参加者が関わる余地がある、みんなでつくる楽しさや嬉しさのバランスが大切なのかもしれません。
藤本:おそらく、出力を変えるというのは、編集という言葉にも密接に関わってくるのかなと思います。やったことがない組み合わせを考えて、予想もつかない化学反応を楽しむ。それが「面白い」という状況(状態)なのかなと。でも、ただ俯瞰して、その反応を楽しむだけではなく、自分自身も変容していることを楽しみながら僕はその場にいますね。
「場」で予想外のことがが巻き起こる中、自分の変容も楽しんでいるという藤本さん。出力の変換は「場」だけでなく、「人」でも起こっているようです。
例えば、藤本さんの事例でこんなことがありました。
(事例)
とあるまちで、イベントスペースの計画づくりワークショップを行った。
近隣住民のAさんは「イベントスペースになると休日などに音がうるさいのではないか」という若干否定的な態度で参加されていたが、ファシリテーターである藤本氏がその方と対話を重ねていった結果、オランダのリペア文化が好きだということが分かった。それから、その方自身がイベントの主催者となり、地域での役割が生まれ、関係性が広がった。
このとき、藤本さんはどんなことを意識してAさんに関わっていたのでしょうか?
藤本:すごく普通の話かもしれませんが、ちゃんと話を聴くってとても大事だと思うんです。言葉や態度に表出されているものが全てではないですし、その言葉の裏にある伝えたいことは何なのかを見つめながら、その人を立体的に捉えようとしています。ジャッジするのを一旦保留して、そこで発してくれた言葉に対し、なるほど、めっちゃ良いですねと認めることって大切なのかなと。
確かに、この事例を見ると、Aさん自身が変わったのではなく、元々Aさんが持っていた興味関心を見つけたことをきっかけに、出していたエネルギーが変容していったようにも捉えられます。
もしかすると、出力というのは変換するのではなく、結果的に人と人との関わり合いの中で、移り変わっていくものなのかもしれません。
この点は、第1回の解剖学で室田さんが言っていた「being(あり方)」に寄り添うことと類型されるようにも考えられます。
問題や解決したいことだけに焦点を当てず、ちょっとポイントをずらした雑談やその人自身の話をすると、思わぬところに人のエネルギーの出力が変わるポイントがあったり、関係性が近づいたりする可能性もあります。
居場所を増やしたいと思っているコーディネーターは、そういったきっかけを与え、一緒に変容していくことを楽しむ姿勢を持っていると、もしかしたら面白い「係」を見つけやすくなるかもしれませんね。
今回の解剖は、「場」と「人」に焦点を当てた、タッチポイントと出力の変換について、深掘りする時間となりました。
解剖図は、場の出力の変化をカリー寺の事例を元に作成したものです。
冒頭、藤本さんは、「1つのプロジェクトが必ずしも誰かの居場所になるとは限らない。人が集まれる場や機会が複数あって、居場所の網の目が強固になり、まちがいい感じになっていくような感覚がある」と話していました。
カリー寺の事例のように、地域にいくつもの場があること、そして1人が複数の居場所を持っていることで新しいことが生まれたり、地域がもっと面白くなるのかもしれません。
今回は、時間の関係でこの部分を掘り下げることができませんでしたが、今後の解剖で明らかにしていけたらと思います。
次回の居場所の解剖学は、2024年2月15日(木)です。
第3回は、環境や建物など“場”から考える人の居場所を解剖。
ゲストは、兵庫県立人と自然の博物館の研究員である、福本優さんです。
環境と建物をどう設定したら居場所になりうるのか、実践を交えながらお話しいただきます。
お申込みがまだの方は、下記よりお申込みください。
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※一度のお申込みで全9回分が完了となります。
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